さとうの美味しいごはん

感想・考察など

【アニメ】憂国のモリアーティ

 つい先日、GAOで全話無料配信をしていた時に一気見したこちらの作品。

moriarty-anime.com

 アニメを見た勢いで原作も最新巻まで購入してしまいました。

 

★アニメ1期

 1期PVからもわかるように、モリアーティは「クライム・コンサルタント」として、依頼人の依頼を解決する姿が描かれています。依頼を受けて行動を起こす、典型的な推理小説前半の構成です。にノアティック号の一連のシナリオ、シャーロックを試す事件を画策したとはいえ、モリアーティはあくまで個、そして事件の外部者としてその性格や内面が小出しに描かれていたように思います。また、物語的に面白くなるためには絶対に必要なシャーロック・ホームズの存在を、1期中盤まで隠していたのも、アニメ脚本の地の骨太さを感じて好印象でした。漫画だと2巻で表紙に登場ですからね、彼。

 

★アニメ2期

 1期から打って変わって、大英帝国の醜聞を機にモリアーティは「コンサルタント」から「犯罪卿」へと描かれ方を大きく変えます。シャーロックと「諮問=コンサルティング」を軸に「犯罪者⇔警部」という対比を見せていたのと関係性も変化して、「謎」を軸にした「巨悪⇔探偵」というように、対比がポジションから本人に移り変わってきたのが印象的でした。また、2期から犯罪卿が表立って描かれるようになったにも関わらず、交渉のテーブルをはさんでホームズと対面するのはウィリアムではなく、兄アルバート。焦点が兄アルバートに向けられていて、その後の情報部長官への種明かしでの台詞。ウィリアムだけの物語にしない構成が上手いなと思いました。

 あとOPが素敵ですね。主要キャラクターの立ち絵を代わるかわる展開していく、少し昔(コードギアス黒執事)を連想させる、カッコよく、古典的なムービーでした。

 

 アニメと漫画とを両方嗜んだ感想ですが、アニメ化で飛躍的に化けた作品だなと思いました。アニメ化して本当に良かった。

 マンガだとやや平べったいコマ割りと、登場人物の表情の幅が狭いことに物足りなさを感じていたのが完璧に克服されたのと、印象的な炎とウィリアムの緋色の眼光の描写がアニメでより印象付けられました。

 特にアニメ化で凄く良くなったと思ったシーンを少しあげてみます。

 

#16 ホワイトチャペルの亡霊 第二幕

原作では初めてルイスとウィリアムの共闘シーンが描かれます。師匠ジャックへの恩返しとなるこの事件、2人がジャックの教えをものにした様をあらわす名シーンです。二人とも高い戦闘技能を持っていて、格下相手に冷静に、淡々を急所を一突きに息の根を止めて回る、冷酷かつ静かな場面として作られていますが、アニメではコマ間の補強がなされ、しかもその淡々とした雰囲気を壊さずに重厚感を増した見せ場に仕上げられていました。漫画では、弟の飛ばされた武器を兄が拾い、兄が敵目掛けたて投擲した仕込み杖をルイスが無表情に抜き去りに敵に向きなおる、静かな連携が描かれているのですが、アニメでは兄弟背中を預け合う描写を引きの構図で入れていただいています。ありきたりですが、良い描写です。

 

#9 シャーロックホームズの研究 第二幕

シャーロックが、目の前の大きな謎に迫るために銃の引き金を引くか否か葛藤するシーン。この場面に限らず、アニメでシャーロックの細かいしぐさの描写が洗練されているように感じます。彼の葛藤の表情が、アニメでは眉の震えとして表現されています。原作だと、テンションや感情の波が大きく描かれているのですが、動的なしぐさに現れる感情の機微の表現が豊かになったのはアニメならではの魅力です。

 

逆に、アニメと印象が違うなと思ったのが最後の事件。これは好みの問題ですね。

 

#23 最後の事件 第一幕

斉藤壮馬さん演じるウィリアム・ジェームズ・モリアーティは物語の冒頭から物語の最終盤、ミルバートンとホームズと対峙するまで、とても淡々と穏やかな性格で演じられていました。声を荒げたシーンも全くなかったのではないかというほど思い当たりません。それが23話から突然に感情が豊かになったように感じました。初回見たときは、やや22話以前のウィリアムと23話以降のウィリアムの変化とアンバランスさがクライマックスに差し掛かった物語の中で浮いて見えてしまいました。文字媒体で読んでいるときは、その台詞に、ブラフでも、感情のこそげ落ちた声でも勝手に想像できてしまうので、すごく無感動な声で再生していたようです。アニメ版だと、最期の事件で、フレッドやルイスのみならず、ウィリアムの情感が大きく描かれていて印象的でした。

ここで特に好きなのが、最期の事件の第二幕、タワーブリッジからウィリアムが実を投げるシーンのアニメオリジナルの演出です。タワーブリッジでのウィリアムは、ホームズが探偵としてではなく、友人として約束の場所に来たのだと悟ってから、あきらめたような、非常に感情豊かに演じられていました。そして、ホームズに「生きて罪を償え(意訳)」と手を差し出されたとき、ウィリアムは逡巡の表情を浮かべ、己の掌を見ます。開いた手のひらには、鈍く輝く緋色の血。ウィリアムはそこで糸が切れたように無表情になり、目の光が消え、そして口の端をわずかに吊り上げて、凄絶な笑みを浮かべます。シャーロックを拒絶し、己の罪の手を取ったのだと、一瞬で悟らせる表情です。唇が笑みをかたどったタイミングで、静寂からBGMが挿入され、テムズ川へと身を投げます。この、30秒ほどのシーンに、ウィリアムの心の表現が詰まっていて、本当に心が痛かった、重厚な映像でした。