さとうの美味しいごはん

感想・考察など

感想 ミュージカル 憂国のモリアーティOp.4 大阪公演

ミュージカル憂国のモリアーティOp.4 犯人は二人 大阪公演を見に行ってきました。
2021年9月に突如モリミュの沼に落ちてから1年半、とうとうモリミュを劇場で観劇できる瞬間がやってきました。

 東京のチケットも確保しているのですが、ひとまず大阪公演を観劇しての初見の感想を記録していきたいと思います。

 観劇した公演は2回。
 28日(土) 13:00~ 1階11列下手ブロック通路側
 29日(日) 12:00~ 2階6列センター

 生の劇場は、光と音の圧が凄い!!!!!!!
 あと緊張で心拍数と発汗がやばい!!!!!!!

 

座席について

 1階席と2階席で光の演出の印象が全然違いました。

 中でも、幾何学模様の天井ライトが舞台前方から客席前方までを照らしていて、このライトが本当に幻想的でとても素敵でした。Blu-rayでは全然わからなかった。そしてこのライトの美しさは1階席で観たときが圧倒的に良かったです。まるで天から神々しい光が降ってきているような感覚になりました。

 一方で、ミルヴァートンが221Bを訪問しているときの、シャーロックの部屋を妖しく照らす青とグレーとピンクが混ざったようなぼんやりとした光。これは1階からはほとんどわからず、2階から見て初めて気が付いたのですが、この色の溶けだした感じがシャーロック陣営に漂うやるせなさやミルヴァートンのフィールドのようなものを感じさせ、非常に不穏で素敵でした。

 他、2階席からだと舞台の台の上が見やすかったのが良かったです。特にモリアーティ陣営が屋敷に襲撃に乗り込むシーンは、台上にいる人数も多く、動きも激しい殺陣なのでごちゃっとしてわかりにくかったのですが、2階からだとすっきりと、個々人の殺陣をクリアに視界に収めることができました。

ストーリーについて

 一つ一つが独立した起承転結を持っていて、複雑なストーリー3篇をどうやって1本の脚本に収めるのか?短編3つ、三種の選べるおかず弁当みたいなことにならないかと少し懸念していたのですが、さすが西森さんです。犯罪卿は何者か?というテーマの下でこの難しい3篇を少しも深みを損ねることなく、1つの物語としてまとめてきました。

 中でもテーマソングの前の導入の3曲がとても巧妙で、1曲目の「犯罪卿は何者か?」という主題を投げつける民衆の歌で始まり、その主題に対する答えを、1幕の終わりの合唱で示し、さらに2幕のクライマックスである三竦みのシーンで満を持して、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ教授の姿を示す伏線にもします。さらに2曲目3曲目でシャーロックとウィリアムのそれぞれのソロ曲でI will、I hopeの思いを示した後、2幕ラストにもウィリアムのソロとシャーロックの独白でもって同じ思いを繰り返します。これらの主題でサンドすることで、本編でアダム・ホワイトリー議員とメアリー・モースタン嬢によって導かれる二つの事件を見る観客の目に、犯罪卿とは?ウィリアムとシャーロックの心理は?という指針をもたらしてくれる上手い構成になっていたように思いました。

場面・曲・キャラクターについて、心に残ったものをつらつらと

ウィリアムソロ「僕の魂を捕まえてほしい」

 先にも述べましたが、ウィリアムのI hopeを深く掘り下げた曲。Op.2や3のゆったりした爽やかなメローディーとは打って変わって、躍動感のあるリズムと音階で、ウィリアムの心の内に隠された激しい思いが吐露されます。そしてこれは言っておかねばと思うのが、音階がきっとめちゃくちゃ難しい!!ウィリアムの絶対領域である高音域で、「僕を捕まえてくれ」と高らかに歌い上げるフレーズがあるのですが、ここの音階の跳び具合と、高さの攻めが激しくて、きっと絶対に声が裏返るように作曲されているんですね。そして、「つか『ま』えてほしい」の声が裏返って、それがものすごく切実で、悲痛なウィリアムの心の叫びに聞こえる。大阪公演は2回とも同じような雰囲気だったけれど、勝吾さんは歌いこなしてしまうのでしょうか。東京公演での変化が楽しみな一曲です。

ミルヴァートンがホワイトリーを人殺しへと誘うシーン

 「ああ~ ああああ~ あ~あ~♪」の不快なダウンスケールを繰り返しながら、ミルヴァートンがホワイトリーが人殺しへと落ちていく様を眺めるシーン。アンサンブルさんとミルヴァートンの側近ラスキンが、ホワイトリーを取り囲み、じりじりと距離を詰めていく中で、ホワイトリーの恐慌が高まっていきます。完全で非の打ち所のない善なる人間であるホワイトリーは、家族を殺されていてもなお、己が人殺しを成すことのハードルは果てしなく高い。そんな彼があっさりと、大事な弟たち家族を殺されたからなんて理由で、目の前の人間を殺してしまうなんて言うのは納得できないというのが観客の気持ちです。しかし、この歌とシーンの中で、その壁を超えることに対する、ホワイトリー自身の心理的葛藤と説得力が、歌と彼の演技で克明に表現されていたようにおもいます。さらに、この歌で誘っているのはホワイトリーの内なる悪魔的な部分の擬人化だと思うのですが、そこにラスキンが加わり、ミルヴァートンが口ずさんでいた不快なダウンスケールを繰り返すことで、そのホワイトリーの恐慌がミルヴァートンによって謀られたものであることをはっきりと示している。2つの描写の複雑な重なりを一挙に表現してのけた素晴らしい演出だと感じました。

モラン大佐ソロ「俺はお前の想いを守る」

 Op.4でについていくつか予想をしていたのですが、そのうちの一つ「モラン大佐の心情フィーチャーソングがある(あってほしい)」が見事的中しました。絶対聞きたかったのでとても嬉しい。ウィリアムの望む結末に対し、自分のウィリアムへの願いや想いとの断絶を感じながらも、ウィリアムの望む結末を叶えようという決意を吐露する一曲です。ここで語るべきはなんといっても音楽についてですが、低音の物々しい和音が重々しく四分音符で刻まれる前奏が始まり、明らかに今までと雰囲気の違う曲が始まったという感覚でした。個人的に浮かんだのは軍靴でしょうか。鈍色の重い影が粛々と歩みを進めているような、鋼の男であるモランそのもののイメージです。そして歌の入りでどんな、荘厳なメロディーが始まるのかと思ったら、囁くような「ウィリアム」から優しいフレーズが紡がれます。あまりに前奏とメロディのギャップが凄くて、驚くとともに、モランの堅さと柔らかさの二面性をふと思い出しました。まさかピアノと歌のテイストで表現してくるなんて、ただすけさんの曲にはいつも驚かされます。

 

アルバート 煉獄を背負い導く者

ウィリアム陣営の中に生まれるすれ違い。ウィリアムの描く終わりを察し、なお彼の意志を尊重しようというアルバートとモランの年長組に対し、ルイスとフレッドはウィリアムに最期までついていくことを望みます。一人一人の心の内を丁寧に描いてくれたOp.4でしたが、特に印象的だったのがアルバートの声でした。4人の歌「心は千々に乱れ」で、彼ら4人がスポットライトに照らされて歩み出ながら、ウィリアムへの思いをめいめいに吐露する歌詞がありましたが、そこでアルバートから出た台詞はなんと「進め」。ミルヴァートン邸襲撃前に目覚めたウィリアムに掛ける台詞も「行こう」でした。
アルバートのソロでは、煉獄を負う覚悟とともにウィリアムを導く歌詞を歌います。ここはアンサンブルさんの演出も素晴らしくて、アルバートが歌う背後で赤い布を旗のように仰ぎ振る動きが、アルバートの背負わんとする煉獄のようにも見え、また、暗き闇の道を行くウィリアムに対し先導する旗のようにも見えました。アルバートの罪の意識の根幹は、ウィリアムに悪の道の一歩目を踏み出す依頼をしてしまったことにあります。これについて赦してくれとは決して言わずに「どうか呪ってくれ」と言うように、アルバートには罪を背負う覚悟があります。ウィリアムに対し、己が犯した原罪を背負い続けていく覚悟が、アルバートの台詞の端々にウィリアムを導くという形で表れているのだと思いました。

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