さとうの美味しいごはん

感想・考察など

感想 ミュージカル憂国のモリアーティ Op.4 @銀河劇場

大阪公演に引き続き、東京公演にも行ってきました。念願の銀河劇場。4年前にモリミュがはここで生まれました。

確保しているチケットは5枚。

4日(土)ソワレ 6列上手端
5日(日)ソワレ 3列センブロ
10日(金)マチネ 3階席上手
11日(土)ソワレ 2階席センター
12日(日)ソワレ 3階立見

見返してみるとなかなか銀河劇場に通い詰める予定ですね。嬉しくなってしまいます。
この感想はひとまず5日ソワレ観劇後に書いています。同じ脚本を観ているはずなのに、公演を見て感じたことは毎公演違うのです。

大阪公演の感想はこちら。

感想 ミュージカル 憂国のモリアーティOp.4 大阪公演 - さとうの美味しいごはん

この後8日ソワレ追加しました。

シャーロックの「捕まえてやる」

シャーロックの”I will catch you, Liam."大阪で聴いたときは、Op.2と同じ、犯罪卿の正体を暴き、お前を逮捕してやるという意味だろうなと思っていたのですが、今日歌詞をはっきりと聞いて驚きました。彼は、「お前の『心を』捕まえてやる」と言っているんですね?

死にたがりウィリアムの心はとっくにシャーロックに捉えられているということはひとまず置いておいて、心を捕まえてやるとはいったいどういう意味なのでしょうか。先を知っているからこそ至る結論かもしれませんが、ここでいう「捕まえる」とは、ウィリアムに自分のことを見て欲しいといった(とっくに達成されている)ことではなくて、ウィリアム孤独な心を救ってやるという意味だと私は考えます。

いったんウィリアム陣営のモランとアルバートに話を戻すと、今作ではウィリアムの孤独は仲間も知るところとなり、そんな彼の孤独に寄り添う仲間たちの思いがメロディーに乗せて描かれています。アルバートにだけは、ウィリアムは罪の意識に苛まれる様子を見せると言いますし、普段行動をともにしているならば、本人が言わずとも彼らには見える部分もあるのでしょう。

しかしシャーロックはどうでしょうか。

仲間に恵まれ、強火の弟もいて、皆に愛されているウィリアムの心が、どうして虚ろを漂っていると思い至るのでしょうか。
それについて、まずシャーロックの「友達」という概念について考えてみます。
シャーロックは、ジョンとの交流を通して友達という概念を学んでいる最中ですが、シャーロックの友達の定義の一部には「同じ目線に立って世界を見る」というのがあると仮定します。豪華客船の螺旋階段で出会って、列車では推理対決に興じ、ダラムでは階級制度を嫌い才能は生かされなければと話し合う。同じレベルの頭脳と英国社会への憂いを持つ、シャーロックとウィリアムという2人の青年はこれまで十分「同じ目線に立って」いたはずです。

しかし、「犯罪卿」と「名探偵」は違いました。

Op.3までの時点では、シャーロックはたとえ義賊だとしても、法律を犯している以上悪であり、法に則って裁かれるべきだとはっきりと言います。犯罪卿の行動原理を理解はしていても、決して同意はしません。そしてきっと、犯罪卿の心には考えも至りません。

なぜなら、名探偵は「人を殺したことのある者」と同じ目線には立てないからです。

さて、シャーロックがこのソロを歌い上げるのは、ミルヴァートンを撃ち殺した後、すなわち、はじめて人を殺した後のことです。ミルヴァートンが殺される理由がある人間だったとしても、殺されていいわけではありませんし、なおのことシャーロックが彼を殺す理由にもなりません。殺しをしないのは彼の信念でもありました。ミルヴァートンを打った後の拳銃が震えていたのも、扱いなれているはずのマッチの火をつけるのがぎこちなかったのも、ミルヴァートンが海に落ちていった後の台詞が酷くぶっきらぼうなのもすべて、彼が踏み越えた一線がいかに大きなものだったのかを示しています。そしてシャーロックのことですから、緋色に染まった自分の身について様々なことを考えたでしょう。そして、もう一度同じ結論にいたるのです。殺すべき理由があったとしても、殺したことに対する罪の意識と苦しみは付きまとうと。

おそらくまさにここが、「名探偵」が「犯罪卿」と同じ目線に立った瞬間です。殺人を犯すものの心が、いかに苦しく、そして冷たく孤独で、裁きを欲するものなのかを理解して、ようやく、ウィリアムと同じ目線に立ったシャーロックは、その心に思い至り、それが冒頭の”I will catch you, Liam."に現れているのではないかと私は思いました。

 

船のシーンの演出

今回、演出の妙が冴えていた曲の一つがここ船に乗ってスモールの乗るオーロラ号を追い立てるシーンだと思っています。(ちなみにもう一つはホワイトリーを人殺しへと誘う場面の曲です。)まず舞台美術の使い方が凄いのです。劇中で、屋根や玄関として使われている二つの高台が、テムズ川を全速力で進む二隻の蒸気船に早変わりします。だから、二つの高台を結ぶ橋は可動式でなければならなかったのか。

さらにもう一つ、曲が始まり、ブルーのライトでホームズ達の乗る船が照らされるまで、ピアノに前奏一フレーズほどの間があります。演出効果上は、船に乗り込み位置につくまでの時間を確保するための暗転なのでしょうが、ここのシルエットが本当に素晴らしかったです。6列上手端。中央から淡く青く照らす背景に、黒く浮かぶ、手すりに足を掛け、前方にスモールの乗る船に見を凝らすシャーロック、コークスに指示を出すレストレード、ワトソンのシルエットが、月夜を思わせるネイビーを背景に美しく浮かび上がりました。

そして、一気に白いライトが正面から二隻の船を照らし、オーロラ号を追い立てる音符の跳ねるメロディーが始まります。曲の躍動感に、二隻の船がテムズ川を驀進している風景がはっきりと見え、シャーロックたちにスモールが追い立てられていく様子もありありと伝わってくる素晴らしいシーンでした。しかし思い出して欲しいのですが、ここ振り付けといえるような大きな動きはどちらにも無く、ただ船の上に3人ずつ乗っているだけなのです。なぜ、ここがあんなに手に汗握る躍動感にあふれたシーンになったのか、いまだにわからないので次回の観劇の課題とします。ただこれだけで終わらせるのもつまらないので、いくつか気づいて嬉しくなった小芝居をメモしておきますね。

まずレストレード警部、吹き矢ごとき無効化できる凄い能力の持ち主だったのですね。私がこれに気づいたのは3回目の観劇からだったのですが、トンガが放った吹き矢はレストレードを襲いますが、彼には全く効きません。なぜなら、彼は左胸に刺さった吹き矢をハエでも払うように、ぺっぺッと払い落としますし(4日マチネ)、その動体視力でもって、パチンと白羽取りを成功させるからです(5日マチネ)。階段を下りてからも何やらシャーロックとやりとりをしているようで、シャーロックに注意されながら財宝をキャッチ&リリースしていましたか?お願いだから小芝居やアドリブをやる時は、目立つところでやってくれ。