さとうの美味しいごはん

感想・考察など

感想「進撃の巨人 the Musical」

ミュージカル進撃の巨人を見に行きました。

www.shingeki-musical.com
1月15日(日) 18時公演。2023年観劇初めとなりました。
進撃の巨人という作品は私も主要キャラとあらすじを知っているほどの超有名作品ですが、原作やアニメを観たことはなく、全くの初見です。演出や脚本はじめ、出ている役者さんもほとんど知らないのでとても新鮮な気持ちで向かいました。

 

感想

 全体として、脚本やストーリーはよく練られていてわかりやすく、原作や人物を知らない私でもよく楽しめました。またミュージカルと謳う通り、進撃の巨人の世界観の導入や説明が、アンサンブルの方々を中心とした歌と合唱でなされる形で構成されていました。光とスモークの演出との相性も素晴らしく、かつスピーディーな進行なのもあって、幕が上がってすぐに進撃の巨人の世界に入り込むことができました。

 特に、冒頭のアンサンブルの歌唱ですぐに世界観が作り込まれ、アンサンブルの方のお歌の上手さを見て、あぁ、これはきゃぴきゃぴの2.5次元ではなくほんのりグラミュを意識した作りになりそうだぞと期待が持てたのが良かったです。

 アンサンブルさんお歌が効果的に活用されていたと思ったシーンはいくつかありますが、一番印象的だったのは、4年前に超大型巨人の出現によって壁が破壊されて、まだ訓練生になる前のエレンとミカサが、エレンの母を助けに走るシーン。人の波に逆らって走るエレン達と、多くの人間が壁の中で混乱の渦の中逃げ惑っている様子。その混乱が次第に絶望や哀しみに変わっていく様子が女性のアンサンブルを中心とした歌唱をベースに展開されました。
 幻想的な衣装とライティングの中で、女性のアンサンブルの方が舞い歌う中、合間合間にエレン達のストーリーが展開されていったのも印象的です。一人ずつ、淡々と巨人の胃袋の中に納まっていく様が、幻想的だがどこか悲しく、しかし必定の定めのように描かれていました。そして、この美しくも悲しい歌の中でエレン達の話が展開されることで、エレンとミカサ、エレンの母のエピソードは特別なものではなく、あの時壁の中で生まれた数多の悲劇の中の一つに過ぎないのだということも強く印象づけられた気がしました。

ダンス

 歌だけではなくダンスも特徴的な作品だと感じました。

 冒頭の野を徘徊する巨人たちの不規則なダンスからは、人の形をしているものの人間とは全く違う動物なのだという巨人の不気味な様子が描かかれていました。一方で、訓練生や調査兵団訓練や集合の場面では、コンテンポラリーな体操やマスゲームを彷彿とさせる整然としたダンスが観られました。
 二つは非常に対照的で、巨人と兵たちが決して相容れない対立した存在なのだということが意識されているように感じました。また、巨人の不気味な不規則さとは対照的な人間の兵士たちのダンスですが、こちらもすんなりと飲み込むことのできない特徴的で不自然なダンスです。壁の中のエレン達もまた、私たちの知る普通とはどこか違う世界、常識の中で生きていることを表現しているのかもしれません。

舞台セットのはなし

 先にも述べた通り、スモークと光の演出が印象的な作品でした。大道具はとてもシンプルで可動式の壁があるのみで壁の上に登れるようになっているくらいです。
 前半は全面スクリーンを背景に壁や街並みが投影されており、狭い箱の中で、エレン達の話が展開されているようでした。途中、アルミンの歌う「壁の外の話」はスクリーンに彼らの思い描く「外の世界」が色鮮やかに投影されていました。

 他、ワイヤーアクションやトランポリンを活用して、アクロバティックかつ立体的な戦闘シーンが描かれていて、彼らの操る立体起動装置が見事に再現されていました。もう一つ忘れてはいけないのが、巨人の登場ですね。ハリボテで作られた巨人や巨人の手が黒子さんたちによって活き活きと動かされ、巨人VS立体起動装置を操るエレン達の戦闘シーンが描かれていました、物語中盤の、超大型巨人の2本の腕とその間をワイヤーアクションで飛び回るエレンのシーンはとてもすごかったです。

各役者さんの話

 ミカサ役 高月彩良さん

 以前、星の飛行士で演技を観たことがあるくらいで、ほとんど知らなかったのですがとてもミカサの役にマッチしていました。表情は硬いけれど、心は熱く、揺るがない信念がとても伝わ侑さんってきたのと、お歌がとても上手ですね。

 福澤侑さん

 ついこの前DMMTVで拝見した「ミュージカル~黒執事寄宿学校の秘密~」でチェスロックを演じていた時に、光るものを感じて今回注目していた方です。アクロバットダンスが得意な方なのでしょうか。今回もダンスアクションを遺憾なく見せつけてくださいました。原作での役どころはあまり良く存じ上げないのですが、合理主義で上から目線の鼻につくキャラクターを作っていながら、一方でエレンの演説に心を動かされたり、仲間を見捨てることのできない純朴で憎めない素顔が見え隠れする、ちょろかわいい奴とでも言いましょうか。決してメインではないものの、要所要所で視線をさらっていく素敵な演技でした。

 彼が一番光っていたのは、訓練が終わりの日に食堂でどんちゃんさわぎをするシーン、そしてどさくさに紛れてミカサにプロポーズする仕草でしょうか。

 リヴァイ役 松田凌さん

 発表されたときに各所から納得のため息が聞こえたという、リヴァイ役の松田凌さん。まず、常に眉をしかめた険しい表情が、絵に描いたままのリヴァイ兵長でした。ワイヤーアクションを用いた見せ場もたくさんで、2本の刀を携えて、立体起動装置で宙を駆け、巨人を次々と仕留めていくシーンは美しさのあまりため息が出ました。彼の台詞で一番良かったのは、壁の穴をふさぐ作戦のシーン。階段を下りながら、壁を蹴飛ばして足掛けた状態で、下に整列する兵士たちに、先の戦いでの犠牲になった人口の2割についての新意味を語り、憤るシーン。表情や感情が見えないキャラなのかなと思いながら、こういった少ない見せ場でキャラの核となる想いを、観客に植え付けてくるので、そういった面に松田凌さんの役者としての技術の高さを感じました。

少しに気なった点等

演出や演技にはおおむね満足だったのですが、脚本と上演時間にちょっと残念なところがあったので少しだけ書き留めておきます。まず上演時間が少し短いですね……。休憩なしの100分でしょうか。これから作戦開始だ!というシーンで終わったのですが、お話の全体として、クライマックスに相当する盛り上がりが無くて、「え、これで終わり??」という感じが否めなかったです。正直、あ、そろそろ1幕終わって休憩に入るかな?と思ったタイミングで全員でのダンスとロゴが出て終わってしまったので、後半は無いの??という感じ。チケット代もかなり強気なので、そこだけかなり残念でした。

 各要素は素晴らしく、新しい演劇の試みが随所に観られる価値のある公演だと思いましたが、全体としてみたときに、良かったけれど感動するほどではなかったかなという感じ。